「君、こんなところで何してるの?」


「えっと、ですね………。」


「今の聞いてた?」


「………はい。でもたまたまなんです。ここ通らないと弓道場には行けないですし。」




盗み聞きしてたようなものだから怪しまれても仕方ない。



でもここを通らなければ弓道場に行けないというのは本当だから仕方ない。




「見苦しいもの見せてしまってごめんなさいね。間違っても大丈夫?なんて聞かないでよね。」



僕がわかりやすいのか先輩が鋭いのか。


多分両方なんだろうと思う。


僕は口に出しかけた言葉を飲み込んだ。




「私のせいで遅刻ね。」


「別に、先輩のせいじゃありません。」


「そう言ってくれると救われるわ。」



そんな会話をしながら弓道場に入るとやはり練習は既に始まってしまっていた。



しかし先輩の上手い言い訳の甲斐あってかバツを受けることは逃れられた。



その後も気丈に振舞っているように見えた先輩だったけれど弓道には精神が関係してくる。



今日の先輩の不調は誰の目にも明らかだった。



いつもは的を外すなんてこと絶対にないのに今日はもう何本も外してる。



いつもとまるで違うらしくない先輩の姿にどうしたんだろうという声が広がる。



それに大丈夫、大丈夫、誰にでも不調はあるでしょ?と笑いながら答えるその姿がやけに哀しく見えた。