「……おい、花乃香。起きろ」


「……え……」



軽く揺すぶられて、ぼんやりと意識が浮上してくる。


うっすらと目を開けると、律くんの心配そうな顔が目に飛び込んできた。



「律くん……?」



あれ、あたしどうしたんだっけ?


立ち上がろうとして、手のひらのじゃりっとした嫌な感触に気づく。


見ればあたしが寄りかかっているのはマスター棟で、そこでやっと自分の状況を察した。


どうやら棟の外に出てすぐ力尽きて座り込んだまま、この場で眠りこけてしまったらしい。



「ご、ごめん。あたしどれくらい寝てた?」


「いや、十分くらいだ。花乃香が出ていったのには気づいてたんだが……トイレかと思って。でも、全然帰ってこないから、」


「探しに来てくれたの?」



口下手な律くんが、若干声を詰まらせながらも説明してくれるのに感動しているあたり、あたしはずいぶん今の環境に順応しているみたいだ。


眉間に皺を寄せて、こくりと頷く律くんに「ごめんね」と曖昧に笑い返す。