礼の事を思い出して少しだけ食欲が落ちていた時、ふいに後ろから声をかけられた。


「なんだか深刻な話してるな」


その声に振り返ると、フェンスの向こう側に聖也が立っているのが見えた。


聖也の手には分厚い本が持たれている。


「聖也! そんなところでなにしてるの!?」


驚いて立ち上がると、聖也は声をあげて笑った。


聖也の足元には人1人通れるくらいの幅があり、その向こうには更に鉄パイプ状の手すりがあった。


自殺防止のためか、二重になっているのだ。


そのことに初めて気が付いたあたしはホッと胸をなで下ろした。


「ほんと、そんなところで何をしているの?」


結菜は驚きというよりけげんそうな表情を浮かべてそう言った。


「読書だよ」


聖也はそう返事をして、片手で起用にフェンスを乗り越えた。


その身のこなしには感心してしまう。


大人しくても聖也も男なんだと感じられた。


「こんな狭いスペースで読書?」


結菜は更に表情を歪めて聖也を見た。


「誰もここに人がいるなんて知らないだろ。だからいろんな話声を聞きながら読書をするんだ」


聖也は悪びれもせずにそう言った。


「あたしたちの会話を盗み聞きしてたんだね」


結菜が聖也を睨み付ける。