何があったか、私は知らない。

 夏がこんなにも怒鳴るほど、恭也が何を奪ってきたのかなんて知らない。

 だけど、もしかしたら、恭也は兄として、夏を守りたかったのかもしれない。

 何から守りたかったのかなんて分からないけど、ただ弟を自分の手で守りたかったんじゃないのかって。

 なぜだかそう思った。

 静かに見つめ合っていた夏と恭也。

 だけど、恭也は視線を落とし、がっくりとうなだれた。

「…夏樹」

「ッ…」

 急に身構えた夏。だけど、恭也は下を向いたままだ。

「悪かったな…」

「…え」

「もう、お前の邪魔はしねぇ。好きなとこ行け」

 これが、あんなにも恐れられていた男なの…?

 思わずそう思ってしまうほど恭也は弱々しくて、立ち上がる気力すらないんじゃないかと思う。

 夏も驚いているのか、呆然と恭也を見下ろしていた。