ある日の午後10時ごろ。
「待て、乱魔ぁ!今日こそ捕まえてやる!」
怪盗を捕まえるために言う刑事の定番な言葉。
そろそろ聞き飽きたよ。
「ったく。待てって言われて待つ犯罪者がどこにいんだよ」
そう呟いてビルの屋上まで走っていく。
「よっ、と」
片足をビルの端に置く。
高いとこだから、風が強い。
「3度目にしては上出来、だな」
『油断してると捕まんぞ、乱魔』
小型無線機で耳に入った仲間の声。
「うっせぇ。もう下には来てんのか」
『当たり前だ。それくらい確認しろ』
なんとも冷たい。
そう思いながら、下を見る。
確かに屋根に分厚いマットをのせた黒いワゴン車が停まっている。
「見つけたぞ、乱魔!」
あー、来ちゃった。
俺は自殺するかのように両足で端に立つ。
1、2の……3!
俺は今さっき盗んだ金をばらまきながら落ちた。
ま、車の屋根の上に落ちたから死にはしないけど。
でも、こんなの目の前で見たらふつうビビるだろ?
だから、俺を追ってきた刑事たちも慌てて下を見てくる。
うわぁ……だっせぇ。
俺が落ちたと同時に、車は出発。
俺はあの刑事たちをバカにするように手を振り続ける。
俺、成瀬一弥(なるせいちや)がこんなことするのにはちゃんと理由がある。
金がほしいから、とかじゃねえからな?
まあ、いろいろあんだよ。
『乱魔』ってのは、盗みをはたらくときの名前。
俺はこの名を有名にしたいんだ。
俺が捕まる気配は全くなし。
このままうまくいけば……!
あ、ちなみに俺がやってんのは盗みだけ。
もしかしたら他の犯罪にも手を染めるかもしれねーけど、殺人だけはぜってーやんねーから。