僕はゆっくりと、その人の机の前へと歩いていった。
その人は目だけで僕を見た。
「食事残したの君だよね?
…………寺井くん」
寺井くんは少しだけ僕の目を見てそして、笑った気がした。
佐野くんが跳び跳ねるように椅子から立ち上がり、後ろから強引に寺井くんの右肩を掴んだ。
「寺井てめぇ!何考えてんだ!?」
寺井くんは左手で佐野くんの手に自分の手を置いた。
そして落ち着いた声で言う。
「大丈夫だよ、たっちん。
オレ思い出したんだ」
「思い出した?」
佐野くんは掴んでいた手を離した。
寺井くんはどうしてこんなに落ち着いているのだろうか?
「たっちんだろ?『練り消し』持ってきたの」
練り消し?
練り消しってあの、消ゴムのカスをまとめて練った様なあの消ゴムのこと?
「でも、机は」
「しっ」
机の中は基本的に没収されている。
僕の本は例外だろう。
もしかして、寺井くんも何かを持っている?
「それに1つ気付いたことがある」
寺井くんはそう言って続ける。
「アイツについては分からないことだらけだ、でも白仮面の方は実施実験の時に必ず側にいる。
それはきっと罰則の実験でもかわらない」
そうか。
寺井くんの狙いは白仮面と対峙すること。
だから、わざと食事を残したんだ。
でも。
「止めろ、わざわざそんな危険な目にあう必要ねぇだろ!」
「そうだよ!それになんでお前がそんなことしなくちゃならないんだ!?」
田口くんも声をあげた。
大切な仲間が自分を犠牲にしようとしているのだから当然だ。
当然のことだったのに、今のこのクラスではこんな当然が凄く輝いてみえた。