「今野くんがうまいこと言ってくれて、部長は諦めたって聞いたけど」
「まぁ、ヤツはたいてい適当だから怪しいもんだわ」
樹理はそう言うけれど、大好きなカラオケのために頑張ってくれたはずだと今野くんを信じたい。
「プロポーズは?オッケーしたの?」
飲み会で騒がしいとはいえ、普通のトーンで問いかけてくる樹理の口を急いで無理やり塞ぐ。
強めに睨むと、彼女は肩をすくめて両手を上げた。それを見てそっと手を離す。
今度はだいぶ声をひそめて耳打ちされた。
「だって気になるんだもの。どうなのよ?」
「…………数日前に断った」
「えっ!なんで?どうして?」
「あまりにも早すぎる」
「何言ってんのよ〜。プロポーズされるうちが華よ?田上さんをご覧なさいよ、1ヶ月で結婚決まったのに。むしろそれを超える記録を生み出せそうだったのに」
簡単に樹理は言うけどさ。
そりゃプロポーズは単純に嬉しかったけど、まだ付き合い始めて間もないわけだし、お互いの嫌な部分もこれからどんどん見えてくるわけで。
それらを受け入れてからの結婚にしたいのだ。
「1年後にまた同じセリフ言って、って伝えたから、どう出るかだな」
私がため息混じりにつぶやくと、樹理は「へぇ〜」と楽しげな顔で焼き鳥を頬張った。
「さすが結子。最後まで難攻不落だね」
「その言い方やめて」
「あははは」
2人で笑い合っていたら、後ろから今野くんが話しかけてきた。
「盛り上がってますね!どうですか、この流れのまま二次会はカラオ……」
「行かないわよ!」
かぶせ気味に私と樹理に同時に拒否され、本気で凹む彼を励ますように背中を叩いてあげた。



