「ケッコンするんだってよ、小野寺さん」
それを聞いたのは、秋の始まりの頃だった。
いつものように休憩室でお弁当をつついていたら、思い出したように樹理が話し出してきたのだ。
その内容はなかなかのものだった。
「え?結婚?健也が?誰と?」
「開発部の小西さんと」
「…………わ、わぉ〜。社内恋愛かぁ」
『別に俺はお前じゃなくてもめぼしい女は他にもいるし』と別れ際に言い捨ててきたのは、どうやら本当のことだったらしい。
所属する部が違うとここまで噂が来ないものなんだ。
ひたすらビックリしている私を、樹理は呆れ顔で眺めながらため息をつく。
「しっかしさぁ。信じられないよね。結子と別れて1年経ったか経たないかじゃん。それでもう違う女と結婚って……。もしかしたら同時進行で浮気されてたのかもよ?」
「まぁ、そうだとしても別れた後だから文句も言えないしね。結婚はおめでたいことだし、お相手の小西さんにも悪いから祝福しなくちゃ」
もう健也とのことは吹っ切れているし、笑って「おめでとう」というのはしっかり言える。
いや、吹っ切れているというか、それよりずっと前から健也への愛情は本物だったかも怪しい。
嫌なところばかり目に付いてしまって、好きな気持ちが薄れていたのは確かなのだから。
きっとそれを悟って、彼も社内で会うと私には冷たいのだ。