「さあさ皆の者、3000年の歴史を持つ、玄徳坊天狗族の、天狗飛びを指南いたそう」
玄徳様は自慢げにそう言って、顔の前で人差し指と中指を揃えて立て、フンッと力を込めた。
「わっ」
「お姉ちゃっ」
「まずは空を飛ぶとはどういうことか、シミレーションじゃ、なあに怖がることはない、もし落ちても太郎坊が助けに行くぞ」
言葉の通り、私達の体は玄徳様と太郎坊と一緒に、みるみる上昇していった。
慌てて宗太郎としがみつきあって、身を守る。
そうしている間に長く育った木なんか遠に越して、
ザッと視界が広がった。
「お姉ちゃんみて!」
「むり!むりむりむり!」
怖すぎて目をギュッと閉じる。
絶叫とか、無理なの!
観覧車だって怖いのに!
なんの心の準備もしてないのにー!
「しょうがない姉だな」
ふわりと私の肩を抱く感覚がして、反射で何かにしがみつく。
「これで少しはマシだろう」
「お姉ちゃん見て!すごい景色だよ!」
太郎坊と宗太郎の声が近くに聞こえる。
ゆっくりと、目を開けると、
目の前に太郎坊がいた。
声も出ないけど、びっくりだ。
太郎坊の肩に宗太郎が乗っている。
そして、太郎坊は私を抱きかかえていた。
しがみついたのは太郎坊の胸板。
太郎坊の面の後ろに広がる、青い青い空。
入道雲。
「わあ……」
山をはるかにこえて、私達は空を飛んでいた。