「一般市民が捜査に参加したんだよ。『帰っていいぞ』ってそれだけ？　失礼すぎるよ。それに、恋人のフリだかなんだかわからないけどさっ、“壁ドン”だって“闇ギュッ”だって初めてだったのに、いつかやってもらうのが楽しみだったのに！」


ああ、ダメだ。

わけのわかんないこと叫んでる、私。

はぁはぁ、と体を折ってなんとか言葉を飲みこんだ私が顔をあげると、結城はまだ不思議そうな顔をしていた。


「お前･･････お礼が言ってほしかったのか？」


きょとんとした顔で結城が言ったものだから、私の怒りはまたすぐに沸騰。


「違う！　･･････もう、いい！」


そう言うと、私はカバンを持って走るように部屋を出た。

部屋の外では友季子が橘と親しげに話をしていた。


「帰るよ！」


そう言うと、階段に向かって急ぐ。


「えっ、琴葉？」


友季子があわてたような声を出すが、私は階段を駆けおりた。

歯をくいしばって必死でこらえているもの。



それは、涙なのかもしれない。