「……っみゃぁぁぁぁん!」

「えっ」

「うわっ、あぶねぇ」


あたしの声に続いて、ミネちゃんの声と自転車のキキーって音が同時に響いた。

自分の声が出た事に驚いている暇もなく、あたしはミネちゃんの元に駆け出す。


「わんわんっ!」


途中でさっきの犬にも吠えられたけど、それどころじゃないから走り続けた。
道路ではミネちゃんが尻もちついてる。


「気をつけろよ!」


ニンゲンの男の声がして、自転車は遠ざかっていく。

怪我した? あ、おひざ、血が出てるよ。

あたしが近づくのを、ミネちゃんは涙目でずっと見ていた。


「……モカちゃん?」

「にゃーにゃー」


大丈夫? 怪我したところ舐めてあげる。そうしたらすぐに治るよ!

足元の方に向かったら、すぐに体が宙に浮いた。
あれ、ミネちゃんに抱えられちゃった。


「今鳴いたよね! 声出たんだ! 良かった、良かったぁ」


ギューって、ちょっと苦しいくらいの力で抱きしめられる。
しかも泣いてる。

困ったなぁ、嬉しいのと悲しいの、どっちなのよ。


「良かったねぇ。良かった」

「にゃー……」


ミネちゃんの膝小僧からは血が出ていたけど、痛いって一言も言わないの。
ずっと『良かった』ばっかり。

良くないよ。
ミネちゃん怪我してるのに。

あたしが舐めれば一発で治るよ。

だから離して。
離してよう。

……だけど、ミネちゃんの腕の中はあったかくて。

涙でぬれた毛は冷たいんだけど、何故だかとっても嬉しくて。

ふつふつと湧き上がるこの気持ちに、もう反抗する事はできなかった。



ミネちゃん。

あたし、ミネちゃんが好きだよ。


大好き。