まひは、もうダメだと言った。

微かな望みも、あの日のまひが全て否定した。



……だったら俺には……。





「……紗衣」



名前を呼んで紗衣の肩を抱き寄せた。


まひとは違う、大人の香り。


もう慣れ親しんだ匂い。


長く伸びる漆黒の髪の毛に優しく触れる。



紗衣と一緒にいれば、まひを忘れて行く。

まひとのキスも忘れていく。


……それでいいんじゃないか?



そんな風に思いながらも、紗衣にまひを重ねてしまう。

ここにいるのはまひじゃないのに。


分かってるのに。



そんなずるい考えと、弱い自分。



"まひ"


「紗衣……」


"まひ"


「紗衣……」



呼びたい名前を呼べない代わりに、違う名前を呼び続けた。