「広瀬さん……やっぱり俺……」
帰ろう。
そう思って立ち上がると
「やだ。あたしは耀くんって呼んでるのよ?距離があるみたいで寂しい。あたしのことも紗衣って呼んで」
また、刃へと豹変する瞳。
「……紗衣」
妙な空気が流れる。
俺はゴクッと唾をのんだ。
「ね、座って?」
彼女は俺の肩に手を掛ける。
彼女の瞳をじっと見つめ、黙ってそのままもう一度ソファに座り直した。
「遠慮しないで食べてね?」
「…………」
「あら。甘いもの苦手だった?」
「……まぁ…」
「ごめんなさい。今度から気を付けるから」
目の前には、有名ブランドのチョコレート。
………甘いものは、正直苦手だ。
部屋にはたくさんの写真が飾られていた。
バレエの発表会。
ピアノのコンクール。
冬のスキー場……
ひとつひとつ説明していく彼女に相槌を打つが、話なんかには全く集中できない。