誰もが息を飲んだ。



不破鉄鋼って……。

あの、有刺鉄線が張り巡らされた、鉄板くずが剥き出しの……。



それは去年まで稼働していた鉄鋼所。


不景気のせいか倒産し、廃材の処理もままらないでその場に放置し、経営者が行方知れずになっている場所だった。


学校の近くということで、再三行政に撤去を求めていたものの、その見通しが立たず、有刺鉄線を張りめぐらし、中へ入らないような措置が取られているだけ。



「耀太は、有刺鉄線を飛び越えて……」



おじさんは、顔を思いっきり歪めた。



「……っ……」



あの中へ突っ込んだなんて。

想像しただけでも恐ろしくて体が震えた。



……耀くん……は……?



陸上選手にとって、足は命。

あんなものが、もし、耀くんの大事な足に刺さったとしたら。


足だけじゃなくて、身体的機能を脅かすような部分を損傷してたら――



嘘だ。

嘘だよ……っ。


恐ろしい光景が頭に浮かび、それを払拭するように目を瞑った。