それからすぐにチャイムが鳴って、綾芽ちゃんは離れがたそうに私の方を何度も振り返りながら席についた。

カナはしばらく私の方をじっと見ていたけど、溜め息をひとつ吐き出すと前を向いた。


__分かってる。

分かってるんだ。

二人がどれだけ私を心配してくれているのか。


だからこそ話したいとも思う。


だけど、今回は話すわけにはいかない。

彼らの治りかけた傷をえぐるようなことはしたくない。


二人が私のことを想ってくれているように、私も二人のことを想っているから。






重い足どりで家に帰る。

視線はアスファルトに向けられて、溜め息ばかりが口から出ていった。

はちみつ色に染め上げられた街は輝いていたけれど、私の目には暗い夜みたいなアスファルトに映る影だけが見えていた。

それでも誰にも心配かけたくはないから、玄関の前にたつとひとつ深呼吸をしてにっこりと口角をあげて微笑む。

仮面を装着して、両親を心配させないように。

それから玄関の扉に手をかけた。


「ただいまー」

おかえりー、とお母さんの声がする。


いつも通り、いつも通り。

そう言い聞かせてリビングに向かった。