それに、最後に聞いた綾芽ちゃんの言葉が心の底でぐるぐる渦巻いていた。


『誰よりもいちばん近くで笑顔をみていたい、誰より幸せになってほしい』


綾芽ちゃんはカナに対してそう思っていると言った。

それが好きだという気持ちだと言った。


それなら、カナに対するこの感情が恋__?


ぐるぐると考えていたところでハルが突然言った。


「もう、みーちゃんしっかりしなよ!」

「え?」

「そうやってまた、くらーいこと考えてるんでしょ」

顔に出てるよ、とハルは言う。

「うそ?」

私は自分の頬を触ってぐるぐる動かした。

「ホントだよ」

それからハルは1つ息を吐き出すと、私の目をまっすぐ見た。

覗き込まれるようだった。

突き刺さるようなまっすぐさだった。


「諦めたらいけないよ」


穏やかで、優しくて、けれども厳しさを兼ね備えた口調でハルはそう言う。


「ど、うして」


「みーちゃんは、諦めたらいけないんだ」


しばらくの沈黙が続いたあと、ハルはふっと思い出したかのように笑った。


「もう、時間だね」

「へ?」

そのときチャイムが鳴った。


「授業、遅れちゃうよ」

ハルは私を急かす。

私は立ち上がって屋上の出入り口に手をかけた。

それから振り返ってハルを見た。

ハルは穏やかに笑って私に手を振る。


「ハルもたまには授業に出なよ」


するとハルは一瞬止まって、それから笑った。


「本当に、遅れるよ」


私はハルを少し見つめて、それから屋上を後にした。

最後に見たハルの寂しそうな笑顔が気がかりだった。