ゆっくりと。 まるで子供の頭でも撫でるかのように、その手は私のお尻を撫でていた。 スカートの上から、感触を楽しむように動かされる手。 途端、額(ひたい)に汗が滲み、鞄を掴んでいる手が震えだす。 (─── 嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だっ!) 手を、捕まえなきゃいけない。そして、「この人、痴漢です!」って叫べばいい。 腕を捕まえて、そう叫ばなきゃいけない。 そう、わかっているのに。 「……っ、」 ─── それを実行する術(すべ)が、私にはなかった。