「お、おい、藤村……」
川上君がかすれた声で私の名を口にしたので、顔を上げて彼の方を見た。
だけど彼は私の方を見ず、固まった表情をしながらゆっくりとリツを指さした。
まるでお化けでも見るようなその仕草は一体何……?
それに誘導されるようにゆっくりと視線の先を辿っていく私。
「……え?」
心臓が止まってしまうかと思うくらい驚いた。
さっきまでかたく目を閉じていたリツだったのに、今はしっかり目を開けて私の方を見ている。
「ゆ……づき」
一ヶ月声を出していなかったせいで、上手く発声ができないのかもしれない。
空気が抜けるような音だったけれど、彼は私の名を呼んでニコッと笑った。
「リツ……?目が覚めたの?」
信じられなくて、私が問いかけるとそれに応えるように、リツは静かにゆっくりとまばたきをしてみせる。
「……話、全部聞いた」
「今までの話、聞いてたの?」
私が聞くと、リツがコクッと首を縦に振ったので思わず川上君を見てしまった。



