その時はあまり気にしなかったけれど、よく考えてみれば少し違和感がある。
普通は『母親が作ったんじゃないの?』って言うはずなのに、リツはハッキリ言い切ったんだ。
『母さんと一緒に作ったんだろ』って。
川上君がお母さんとクッキーを一緒に作って、病室に持ってきている事をリツは知っていた。
「リツはその事を知っていたよ。川上君にもらったクッキーを見せた時に、母さんと一緒に作ったんだろって言ってたもん」
「え……?」
私の言葉に驚きの表情を浮かべる川上君。
知っていたけれど、どうしても元に戻る事はできなかった。
家族のぬくもりを求めてはいたけれど、信じて裏切られる事が怖かったのかもしれない。
「……同じ事で悩んでいる私を見て自分と重ねていたんだと思う。私にアドバイスをくれたけれど、もしかしたらあれは自分に言い聞かせていた事だったのかも」
ギュッとこぶしを作って、私はリツを見た。



