「いなくなればいいだなんて、一度も思った事なんかねーよ……」
そう言いながら引き戸を開ける。
物音ひとつしない病室。
電気はつけられていなくて、窓際のカーテンは開けっ放しになっていた。
月明かりが差し込んで、そのせいで病室内は明るい。
「……川上律。俺の弟だけど、公園で藤村が一緒にいたリツはコイツ?」
「……うん」
ベッドに歩み寄ると、月明かりに照らされながら静かに目を閉じたままのリツがそこにいた。
まるで眠れる森の美女のように、その表情は穏やかで美しいと思えるほど……。
月明かりのせいか、青白く見えて生きているのか死んでいるのか見た目では判断できなかった。
「一ヶ月前に雨の中、信号無視の車にはねられた。その日はリツの誕生日で母さんと俺は一緒に料理作って帰りを待ってたんだぜ……?」
「そう……だったの?」
リツはその事もきっと知らない。



