川上君はリツの事を知っているのだろう。
そして、リツが今どんな状況にいるのかという事も。
病棟へのエレベーターに乗り込む彼の背中を見ていたら涙がこぼれそうになり、私はその場から逃げるように立ち去った。
何も……考えたくはなかった。
病院を出て空を見上げると、まだ星は見えていない。
「帰るよ、結月」
空を見上げたまま動かない私の耳にお父さんの声が飛び込んできた。
声のした方を見ると、運転席から顔を出しているお父さんの姿がある。
春奈サンは助手席ではなく、えみりと共に後部座席の方に乗っていた。
「……はい」
返事をして助手席のドアを開ける。
私がお父さんの助手席に乗るなんて初めてだ。
でも今はそれを気にしている場合ではなかった。
スマホを握りしめて、ただ震えながら祈る事しかできなかった。
リツが消えてしまわないようにと、ひたすらそれだけを強く願って……。