硬直したままの私にゆっくりと歩み寄って来た川上君。
表情は険しかったけれど、先に出て行ったえみりの姿を見て事態を悟ったのだろう。
「……妹、大丈夫だったみたいで良かったな」
「う、うん……」
顔がこわばってしまう。
川上君と話をしたくなくて、ここからすぐ離れたかったのに足が動かない。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、足元に落ちた傘を川上君は屈んで拾い上げた。
「お前はよく物を落とすんだな。スマホも落としたまま忘れてったぞ」
「……ありがとう」
傘を差し出した後、泥だらけのスマホを私の手に握らせてくれる。
それで私の手が震えている事に川上君が気づいたようだった。
「じゃあ、また。妹、お大事な」
「……うん」
川上君は何も聞いてこなかった。
何も言わないでと強く強く望んだせいかもしれない。