私のお母さんは亡くなったお母さんだけ。
これだけはどんな事があっても変わりはない。
「……お母さんと呼ぶ事はできないけど、春奈サンって呼んでもいいですか?」
私の言葉に春奈サンは目を丸くして驚いていた。
えみりの方をチラッと見た後、何度かうなずいて私に微笑みかける。
「もちろんよ。結月ちゃんのお母さんは亡くなった花絵(はなえ)さんだけっていうのは当たり前だと思っているから。……でも、何か困った事が起きたら遠慮なくいつでも相談してね?私はあなたの事をえみりと同じで大事な娘だと思っているから」
「……はい」
私がどれだけ嫌な態度をとっても、春奈サンは私を見捨てなかった。
もちろんそれを覚悟でこの家に来たのかもしれないけれど、相当しんどかったと思う。
「藤村えみりさんー」
「あ、はい!」
受付の方で名前を呼ばれて、えみりが立ち上がると春奈サンが彼女を座らせて受付の方へと行く。
手当ては終わっていたし、会計待ちの状態だった事を思い出した。



