「自分の死期が迫っている事を母さんは知っていたんだと思う」
「だからって……何でお父さんに……」
お母さんが直接渡してくれても良かったじゃない……。
お父さんは今までずっとこれを持っていた事になるけれど、何ですぐ渡してくれなかったの……?
しかもこのタイミングで渡してくるなんて。
手紙を持つ手が震えてくる。
「ずっと渡したかった。だけど結月は父さんに対して反発していたから言い出せなかった」
「私のせいなの?」
「いや、父さんに勇気がなかっただけだ。これ以上、嫌われたくなかったから……」
お父さんの声も震えている。
お母さんが死んだ時、仕事を優先したほどの冷血漢が……。
私はずっとお父さんを避けてきていた。
だから、声をかけるきっかけすらなかったのだろう。
ふつふつとこみ上げてくる感情を抑えながら、私は便箋を丁寧に開いた。



