「俺、やっぱり、行かなきゃ」


アキは固い声でそう言った。


「だから、ダメだってば!」


私は大きな声で否定した。

アキのことだ、ここで強く言っておかないと本当に明日学校に行きかねない。

無茶して体調がさらに悪化されても困る。


「でも」

「あたし達に任せてって」


それからあたしは「朔兄が明日は来てくれるって」と付け加えた。


「え、兄さんが?」

げ、とまるで苦虫を噛んだような顔をしたアキ。


「まだ大学は夏休みだから、だって」

「大学生、ずるい。高校生なんて、夏休みないのに」


それからアキは諦めたようにまた布団にもぐった。


「朔兄が来たら、アキ、抜け出せないね」

「どうやったって無理だね」

あー、残念。

アキはそういって嘆くけど、あたしは嬉しかった。

だって、体調悪いのに、こんな部屋でひとり、なんて、悲しいし心細いでしょ?

それに朔兄がいてくれたら、きっとアキも無茶をすることはないだろうから。

朔兄だけなんだ。昔から、アキの暴走を止められるのは。


「佐奈、ほんと、ありがと」


突然そんなことを言うから、少し反応が遅れた。


「お粥、おいしかった」

「ゆっくり休んでね」

「佐奈も」


それからアキは汗が気持ち悪いからと浴室に向かった。

アキのためにつくったお粥の皿洗いをしなきゃ、とお粥を見ると、アキは全部食べてくれたようだった。

これだけ食欲あるなら、回復は早いかな。

…早いといいな。


これ以上アキが無茶しませんように、と願いを込めながら皿を洗う。

でも多分、願っても叶わないだろうなと思った。


身内が絡んだ厄介事に無茶しないアキなんて、想像できないから。