「適当に座って」とお母さんは台所に向かいながら叫んだ。

ガチャガチャと慌ただしい音が聞こえるし、多分お茶とお菓子の準備をしているのだろう。

キョロキョロと部屋を見渡していると、アキは「良かったね」と言った。

「佐奈、嬉しそう」

いつものような無表情あるいは不機嫌そうな顔ではなく、柔らかく微笑むアキに、なんて答えるか少しだけ迷った。

「うん、嬉しい」

あたしは結局素直に喜んだ。

本当に嬉しいし、別に強がるところでもないと思ったから。

アキは何か言うだろうと思った。茶化すような、バカにするような、あたしを怒らせるような、何かを。

だけどアキはそれ以上何も言わなかった。

何も言わないで、あたしを見ていた。

不思議に思って視線を向けると、アキはすぐに視線を逸らした。表情も、いつもの無表情になっている。

だけどあたしはちゃんと見てた。見てしまった。

少し、寂しそうな、辛そうな表情をしていたことを。

その理由は分からなかった。微塵も、思い当たらなかった。

だけど胸がぎゅっと締め付けられたみたいに痛くて、訳のわからない不安が身体中を満たしていく。

…ねえ、どうしてそんな表情をするの。

アキは一体何を抱えているの。


「アキ」


聞きたくて、名前を呼んだ。


「ん、なに」


アキは微笑んでいた。

だけどどこか切なくて、苦しそうで、辛そうだった。

理由を知りたいと強く思った。