掠れたアキの声が、痛いくらいに胸を締め付ける。

「…リドを嫌う理由が、兄さんのことだけじゃなくて、佐奈が傷つけられたことだけじゃなくて、別にあるんだ」

「別にあるって?」

どういうこと、と尋ねるけど、アキは口を閉ざしてしまった。

あたしもなんて声をかけたらいいのか分からなくなって黙る。

アキは俯いているし、どこを見ていたらいいのかさえ分からなくなって、祭壇の方に目を向ける。


シン、と訪れた静寂があたし達を包み込む。


「…ここは、いいね」


唐突にアキが言った。


「気持ちがしゃんとする」


顔を上げたアキは、いつものアキだった。


「戻ろう。晩ご飯、あとは俺がつくるから」


それからあたしの腕を引っ張って本殿を出ようとする。

その行動にすら、アキが無茶してるんじゃないかと思えて仕方がなくて、思わずアキの名前を呼んでしまう。


「どうしたの?」

アキは振り返ってそう尋ねる。

聞きたいのはこっちなのに。

だけどそんなことも言えなくて、あたしは掴まれている手をほどいて、両手でアキのあたしより大きな手を握った。


「無理、しないで」


やっと言えたのは、そんなありきたりな言葉だった。

違う、もっと本当は別のことを言いたかったんだ。

だけど、ふさわしい言葉が見つからなかったんだ。


アキは驚いたように体を固まらせていたけど、すぐにクスッと笑った。

「まあ、ぼうっとして自分の指切っちゃった人には言われたくないかな」

「アーキー!」

心配して損した!というと、アキは「へえ、心配してたんだ」と全然興味なさそうに言った。

あたしは「はあ」とため息を吐いた。


幼なじみ歴17年。

東條晃の心が分かりません。