そうか、アキがいなかったら、こいつと2人きり…


「こんな猫と2人きりなんて絶対イヤ!」


思わず口に出てしまった。

リドにギロっと睨まれたような気がした。

まるで「オレ様の方がお断りだ」とでも言いたそうな視線だ。


「ま、そういうわけでよろしくね~」


お父さんは手を振りながらおうちの方に歩いて行った。


呆然とその後姿を見ていると「佐奈ちゃん」と朔兄が後ろから声をかけてきた。


「大丈夫?」

「はは…」

もう何が何だか分からなくて、乾いた笑いしかでてこない。


「何だかすごい展開になっちゃったね」


そうは言うけれど朔兄は相変わらず穏やかな口調だった。

おかげであたしも少し落ち着いた。


「なんていうか、びっくりだよ」


タイムカプセルだと思った缶を掘り起こしてから今までの出来事をざっと振り返ると、短い時間の間にとんでもない量の出来事が詰まっている。濃厚だ、とても。


「ほんと、びっくりだよね」

朔兄も乾いた笑いをしていた。


「まあ、これからうちに住むって言っても佐奈ちゃんの家に帰れないわけじゃないからさ」

「うん…」

「困ったことがあったら何でも言ってよ。晃が嫌だとか愚痴も聞くからさ」

朔兄は頭をポンポンと撫でつける。


「ありがと」


朔兄がいてくれて本当に良かった。

朔兄のおかげであたしはいつものあたしを辛うじて保てている。


「佐奈ちゃん一旦家に帰ってきなよ。
多分今うちの父さんも佐奈ちゃん家に連絡はしていると思うけど、佐奈ちゃんからも一応説明してあげて。

日が暮れる前にうちに戻ればいいから」

「晩ご飯は一緒に食べようね」と微笑む朔兄が優しくて、温かくて、嬉しかった。


「朔兄、ありがとう」


あたしがもう一度言うと、朔兄はにこっと笑ってもう一度頭を撫でてくれた。