「そうだよ!アキがあたしより遅く来るなんてなかなかないから」

心いっぱいに広がっていく恥ずかしさを押し込んで、美晴の隣に立ってアキに問う。「そうかもしれないけど」とアキはどっちつかずのあいまいな返事をした。

「それに」

あたしはアキの目をじっと見つめた。

逸らされないように、逃げられないように。


「どうして何も言ってくれなかったの?」


家に籠って調べものをすること。

そのためにアキが離れを出ていくこと。

その代わりに朔兄が来ること。


朔兄とお姉ちゃんのことなんかもあって、土曜日の夜にばったり会った時にはすっかり聞くのを忘れてた。


アキの瞳は澄んだ色をしていた。アキの心の清さと似ているのだろうと勝手に思った。

視線を逸らさないまま、アキはしばらく黙った。だからあたしも黙ってアキを見つめていた。

けれどアキは不意に視線を下に逸らした。それから少しかすれた声でこう言ったのだ。


「…そこ、通してくれる?俺の席なんだけど」


「アキ!」


逃げないでよ!

あたしがそう言うけど、アキは何も反論しない。

それどころか「ごめん」なんて力のない掠れた頼りない声で言った。


「アキ!」


…呼びかけるけど目も見てくれない。


違う、違うんだよアキ。

あたしはそういう言葉が聞きたいんじゃない。

そういう言葉を言ってほしいわけじゃない。


あたしはただ理由が知りたいだけなの。


アキはあたしを追い越して自分の席につくと1限目の準備を始めた。

一切こちらの方を見ることなく。

どうしよう、と美晴を見ると、美晴も眉間にしわをよせて苦しそうな表情をしていた。