「げ」

そんな声が聞こえて振り返ると、そこにいたのはリドだった。


「リド!」


リドは眉間にしわを寄せて渋い顔をしている。

「なんでこいつがいるんだよ」

嫌だ、とリドは言わなかったけど表情からそう思っているだろうなということが伝わってきた。

リドは朔兄のことが相当苦手な様だ。


「やあ」

町の中で知り合いに出会った時のように朔兄はリドに声をかけた。

それはとても自然でいつもの朔兄らしかったけど、少しだけ言葉の温度が低いように感じた。

さっきまでの優しさはどこへやら、朔兄もリドが嫌いな様子だ。


「…うさんくさい笑顔だな」

「…きみはとても素直だね」


リドは眉間にしわを寄せて嫌悪感をあらわにし、朔兄はニコニコして、嫌味を言いあう。

はあ、と溜息を吐いた。


「それは誉め言葉か?」

「さあね」


リドと話すことで、無気力なアキは嫌悪感を丸出しにし、あんなに優しくて穏やかな朔兄は嫌味を口にする。

リドとアキの相性も最悪だが、リドと朔兄の相性もそれと同じくらい、いやそれ以上に悪いようだ。


「ていうかあいつはどうしたんだよ?」

眉間にしわを寄せたまま、リドは尋ねる。

「あいつ?アキのこと?」

「ああ。あいつはどこ行ったんだ」

すると朔兄が少し低い声で「ああ、それはね」と答えた。


「きみが気にしなくてもいいことだよ」


表情は笑っているのに、目だけは笑っていない。

冷たい言葉、冷たい笑顔。

まるで怪談を聞いた後のようにあたしの顔はひきつった。