そのあと、家に着くまであたし達は一言も会話しなかった。


「…ただいま」

ようやく沈黙が途切れたのは家に着いてからだ。


「…おかえり」


リドが出迎えてくれた。

リドは少し眉を下げて憂いたような笑みを浮かべている。きっと昨日のことを悔やんでるんだろうなと思った。


「佐奈、身体は大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ!」

心配させないように笑って見せた。

本当は少しだけ打ち付けたところが痛くて湿布が必要だけど、リドには知ってほしくなかった。

いつもみたいに笑ってほしかった。


「それより、リドは大丈夫なの?」

昨日家に帰ってからも、今日の朝も、リドは姿を見せなかった。

おかげであの事件以降、ようやく会えた。


「オレを誰だと思ってんだよ。そうやすやすとやられたりしねえよ」

リドは笑った。

それはあたしをばかにするような笑い方じゃなくて、あたしを安心させるような笑い方だった。

優しい笑い方だけど、それはなんだか少し寂しく思えた。


「あれは、あの敵は何だったの?」

あの風を操る敵。あたしを小娘だと言った、あの敵は。

「リド、知ってるんでしょ?」

あいつの風を操る技を、リドはカマイタチだと言った。

それは紛れもなく、リドがあの敵を知っている証しだった。

「そ、れは…」

「リド!」

リドはいつになく言葉を詰まらせている。リドらしくない。