「まさか、アキが運んでくれたの?」


あたしが問いかけると、アキは「仕方ないでしょ」とため息を吐いた。

「びっくりしたよ、たまたま通りかかった階段下で佐奈が倒れていたんだから」

心臓が止まるかと思った、というアキの言葉は大げさだなと思ったけれど、あながち間違いでもなかったのかもしれないとも思った。

アキは優しく頬を撫でた。少し痛んで、傷口に絆創膏を貼ってくれていたのがやっとわかった。

「階段が崖になっちゃって、誰か敵がいて、風が吹いて、踊り場から落ちてそれから記憶なくて、あ、リドは?リドはどうなったの?」


リドはあの後も敵と戦ったのだろうか。


「リド、敵の攻撃から身を挺してあたしを守ってくれたの。アキ、リドはどうなったの?どこにいるの?」


あたしを守るためにした怪我以上の怪我をしていないだろうか。

するとアキは「優しいね、佐奈は」と複雑な顔をした。


「あいつは敵で、悪魔なのに」


確かにアキの言う通りだった。

リドは敵だ。小学校に封印されていて、あたしと勝手に契約まで結んだ。


それなのに、どうしてだろうか。

あの時頭を打ち付けたせいだろうか。


『お前に怪我がなくて良かったよ』

それともあの時、あたしのことを身を挺してまで守ってくれたからだろうか。


憎むべき相手だとは理解しているのに、だけどそれだけで割り切ってしまえるほど、あたしはリドを憎めなくなっていた。