いくつもの見えない刃がリドの背中を容赦なく傷つける。

「リド!」

「くっ、!」

リドは少し顔を歪めたけど、あたしを守ろうと抱き締めた腕だけは力を緩めない。

このままじゃ本当にリドがやられてしまう。

「ねえ、リド」

「あ?んだよ…って、あっ、バカ!」

あたしは不意をついてリドの腕の中から飛び出した。


「これ以上、傷つけさせない!」


あたしは守るように腕を広げた。

アキが見たら馬鹿だと呆れるかもしれない。それでもあたしは今、身を呈してまで守ってくれたリドを、ボロボロに傷ついたリドを、守りたい。


『巫山戯るな、小娘ごときが!』


風は強く強く吹く。

まるで全てのものを押し流すように、刻むように。

前傾姿勢で耐えるけど、台風のときよりずっと強く吹く風に、体は後ろへと押し流されていく。


「佐奈!」


リドが目を見開いて叫ぶ。

同時に横から強い衝撃が走った。

予想外の攻撃に、あたしはなす術がない。

まるで吹っ飛ばされるように浮く体は自由が利かず、崩れた体制を整えることもできなかった。

そのまま、体は落ちていく。

上へと続く階段がなくなったと思ったら、どうやら下へ続く階段もなくなっていたらしい。

まるでスローモーションのように、景色がゆっくりに見えた。

目を見開いて必死な顔をして、あたしの腕を掴もうとするリドの顔がどんどん遠ざかる。

直後、体を打ち付けた。

背中が痛い。体が、頭までも痛い。

痛みが全身を駆け巡って、思考回路は滞る。

身体中の悲鳴にも似た痛みの中で、視界が狭まっていくのを感じて、そのままぷつりと意識は途切れた。


「佐奈!」


あたしを呼ぶ、誰かの声が最後に聞こえた。