しばらく歩いて実験室や調理室がある人通りの少ないところまでくると、ようやく彼はあたしの腕を離した。


「とんだ目にあった、あんだけの人数に囲まれるなんて。ああでも言わねえと抜けられねえとはな」


苦労するぜ、とため息を吐く彼の脛を蹴る。


「いたっ、何すんだよ」

「なんでこんなところにいるの!?」


あたしは詰め寄った。

鋭い目で彼の瞳を見つめた。逃さないという意思を込めて。


「…へえ、オレの正体に気づいてたのか」


にやりと唇の一端を上げる憎たらしい微笑みに苛立ちながら「当たり前でしょ」とあたしは答えた。

一緒に生活してきたんだ、気づかないわけがない。




「リド」



あたしと勝手に契約を結んだ俺様悪魔。

きっとアキはリドが学校に来ていることに気づいていた。こいつが姿を見せる前から、きっと気配を、魔力を、察知していたんだ。だからあんなに不機嫌な顔をしていたんだ。


「佐奈、お前やっぱり勘がいいな」


褒められても嬉しくはない。


「どうしてここに来たの?あんたはあの家から出ることはできなかったはず」


するとリドは笑った。まるであたしを馬鹿にするみたいに高笑いをした。


「オレを誰だと思ってるんだよ」


それからあたしに顔を近づけて、その整った顔を口元だけ妖艶に歪ませた。


「オレは悪魔だ」


何だってできるさ、と。