リナリア

* * *

「ふぅん?こいつがなんか話題の奴ってわけ?確かにまぁ顔は綺麗だけどそれだけじゃね?」
「…口を慎めよ。どこで誰が聞いているかわかったもんじゃない。」
「まぁいいじゃん?俺はこういう破天荒キャラっていうか、こういう感じだけどいざやるってなったら豹変するところが売りなんだから。」
「自分で言うか、普通?」

 30代前後に見えるスーツの男性マネージャーにたしなめられながらも、口の悪い明るめの茶髪の『彼』は態度を一向に変えなかった。

「…まぁ今度どうやら共演できるらしいし?一発噛みついてやろうかな。全然お前みたいな、お呼びじゃないよってな。」
「…どうしたんだ?なんでそんなに気にしている?らしくないな。」
「まぁ、映画出れるチャンスだったオーディションで、役かっさらわれたら気にはするっしょ。一体どんな奴が盗ったんだって。」
「…まぁ、やる気があるのはいいことだが、余計なことはするなよ。」
「余計なこと?」

 『彼』の声がワントーン低くなった。

「同じ現場で格の違いを見せつけたら、それは『余計なこと』か?」
「俺に言わせれば、格の違いなんてものはないけどな。経験年数が多少お前の方が上ってだけで、品行方正な態度や顔の綺麗さ、受け答えの知性、どこをとっても世間は『伊月知春』の方が好きだ。これは一般論としてそう言っている。」
「一体誰の味方なわけ~?」
「誰の味方でもなく、ただ一般論を言っている。お前は一部にはそれなりに刺さっているが、大衆受けはしにくい。性質上それは仕方がない。」
「そういうさ、好かれてない俺に『演技』で勝てねぇって思わせてやろうかって話。」

 そう言って『彼』は不敵に微笑む。そんな姿に、マネージャーは深くため息をついた。

「時々、お前の妙に無鉄砲な自信が羨ましくなるときがあるよ。」
「まじ?え、褒められた?」
「褒めてはいない。これも見たまま、現実として言っている。」
「はーつまんな。まぁでも、いいよ別に。俺は俺にしかなれない。俺にしかやれないもんで、食らいついてやんよ。」