リナリア

* * *

「まだ話せないんだけど、実はこの先、少し楽しみというか、初めて受ける仕事もあって。」
「初めての仕事…。」
「うん。…当たり前に初めての仕事ってまだまだたくさんあるし、映画のときもそうだったけど、アクティブでもポジティブな方でもないから最初って緊張するし、不安もそれなりにはあるんだけど…。」
「はい。」

 知春は一度空を見上げた。そしてスッと視線を名桜に向けた。

「…頑張りたいなって。上手くできないこともたくさんあって、それでもまだ何者でもない自分はきっと、かっこ悪くてもいろんなことをやって、誰かに見つけてもらって仕事の幅を広げていくしかやりたいことを続ける方法ってないと思うから。…前よりも、頑張るって気持ちで今は満ちてるかも。名桜に告白して、少しすっきりして、まっすぐ顔が見れるからかな。」

 名桜の頬の赤さは引いてくれない。次から次へと知春が今までと少し甘さの違う表情を見せてくるから、名桜の心臓はきゅっと一瞬苦しくなって、そして鼓動が速くなる。

「…あの、顔を合わせるの、困っていましたか?」
「え?」
「すっきりしたから顔が見れる、というのは…その、顔を合わせにくい時期があったのかな…と思いまして。でも私は気付いてなかったというか…。」
「気付かれないように一生懸命頑張ってたんだから、名桜が気付かなくて当然っていうか、そこはね、一応演技で稼いでる身としてはバレバレだと…この先が思いやられるよね。」
「そ、それはそうかもしれませんが!」
「名桜のせいとかじゃなくてね、普通に俺の問題だよ。関係を壊したくなかったし、でももっと近付きたいって気持ちの方が大きくなっちゃって、隠しきれなくなりそうだったから話したの。…でも、名桜が強くて助かった。」
「…強い、ですか?」

 強かったらその場で即答することができたような気もして、名桜は少しだけ首を傾げた。おかしそうにふふっと知春は笑って、言葉を続けた。

「うん。名桜は心が強いなって、前からちょっと思ってたけどやっぱりそうだった。…『考えたくない』『わからない』って言って、俺への返事を言わないっていう選択もとれるのに、それをする気は最初から多分なかったよね?」

 名桜は頷いた。わからないとは思ったけれど、考えたくないとは思わなかった。

「…そんなこと、できませんよ。できないし、したくないです。そういう私は、知春さんと仕事をするにも知春さんとお話しするにも相応しくないって思うので。」