役立たず姫の一生〜永遠の誓いを貴女に〜

では、何故、アンヌ王妃に味方する貴族が数多くいるのかーー?

「サレフ出身のアンヌ王妃は元々キトニア国教会の信徒ではないですよね?
なぜ、あんなに熱心に保護するのでしょうか」

キトニア国教会のみを宗教として認める我が国と異なり、サレフは宗教に寛容で無神論者もいると聞く。
だが、アンヌ王妃はキトニア神を熱心に信仰・保護していた。故に宗教利権を持つ貴族や神職者達はアンヌ王妃の側についた。

ランス公は唇の端だけを無理やり吊り上げた苦々しい笑顔を作って言った。


「あの人はキトニア神を信じている訳ではない。 宗教が権力と強く結びついている我が国では利用価値があると知っているだけだ。
信仰心のない宗教家ほど怖い相手はいないよ」

ランス公は軍人としてはもちろんのこと、政治家としても非常に有能な男だ。
野心家ではあるのだろうが、決して私利私欲に走ることはない。
5大公爵家の筆頭として陛下の信も厚く、若い軍人にはランス公を崇拝する者も多い。

そのランス公が手強い敵だと認めているのだから、アンヌ王妃は俺が思う以上に
大きな人間なのかも知れないな。


「アゼル」

俺の名をよぶ力強い声に、思わず姿勢を正す。

昔からそうだった。この人の声には、圧倒的な力がある。 瞳には、上に立つ者の威厳が宿っている。


「ミリアム王太子に恨みはないが、私はエレーナ王女殿下を次期国王に推すぞ。

だからな、アゼル。 その時が来るまで、お前は王女を守り導いてやって欲しい」


「・・・そんな大役が私に務まるとお思いですか?」

俺は肩をすくめ、おどけた口調で言った。

俺がお飾りの婚約者であることは貴方が一番わかっているはずだ。
喉元まで出かかったその言葉を何とか押し留めた。


ランス公はふっと目尻を下げ、楽しい悪戯を思いついた少年のような顔で俺を見る。

「ティーザ家の息子達はみな父に似ず優秀だが・・・ここだけの話、私は昔からお前を一番買っていたんだよ」