役立たず姫の一生〜永遠の誓いを貴女に〜

俺も陛下に対して何の恨みもないし、最低限の敬意と感謝の念は抱いている。

ただ、あまりにも遠いのだ。

田舎貴族の俺にとって、陛下は神に等しい存在だ。幽霊や悪魔と言い替えてもいいだろう。

口では畏れ多いなどと言ってはいるが、その存在も価値も明確には理解できない。不確かであやふやなものだった。


だから国王陛下のことは大して心配ではない。 けれど、彼はエレーナの父だ。
もしエレーナが悲しむのであれば、心の底から陛下に助かって欲しいと思う。


こんな風に考えてしまう自分はすでに、十分に品性の卑しい人間なのだろうか。

『誰かを愛するということは、ひどく利己的なことなのよ』

ふとそんな言葉を思い出す。
言っていたのは母のサラだったか。


「誰も信じないかも知れないが、私は自分の権力欲やアンヌ王妃への恨みからエレーナ殿下を担ごうとしているわけではない」

ランス公は静かに語り始めた。

「アンヌ王妃は美しく賢い。 大国の後ろ盾もあり、王妃としては悪くない人物だ。だが、それは陛下という絶対的な存在があってのことだ。最高権力者として相応しい器ではない。 アンヌ王妃がこの国の実権を握ってしまえばサレフの思うツボだ」

アンヌ王妃の母国、サレフは大陸の経済の中心となる大国で軍事力でも他を圧倒する力を持つ。
サレフはアンヌ王妃をうまく使って、何かと自国に有利になるよう話を進めようとする。
特にサレフの要望する関税の引き下げはキトニアにとって、頭の痛い問題だった。元々、物資の豊かなサレフからはたくさんの品物を輸入しているのだ。関税を引き下げればその割合はますます増え、自国の産業を圧迫し、成長を妨げることになるのは目に見えている。

そんな事はランス公でなくとも、重臣達は皆わかっていることだ。