「加地さん最低です! もうもう本当いやだ!」
「ははっ」
完全にわたしの機嫌を損なったというのに、彼はにこにこと笑ったまま。これが別の女性だったら甘い口説き文句でかんたんに機嫌をなおしてみせるくせに、わたしにはたった一言さえも向けられない。
ちょっと、本気でわたしにだけ態度がひどいと思うんですが。
わたしのことを受け止めてくれて、大切にしてくれる。そんな人を探すわたしはいつだって女らしくあろうと意識しているのに、彼といる時だけはうまくできない。
だからそばにいたくない。好かれていないとわかることは、恋愛対象でなくとも少し苦しい。
「そんなことない」
プチトマトを箸が捉えたところで、隣からかすかな声が聞こえて、顔をあげる。
「そんなこと、ない」
「え?」
「水瀬は、いいやつだ。
きっとすぐにいい男が見つかる」
ぽつぽつと雨だれのよう。浅田さんが不器用に慰めの言葉を投げかける。
誰が見ても明らかに面倒な女の、わたしに。
ころりとプチトマトがお弁当箱の中に逆戻り。
意図せず頬に熱が集まる。自分でも鏡に姿を映したかのように、目の前のトマトと同じくらい顔が赤くなったのがわかって。そのことが、心臓の音なんて耳に入らないほどとても恥ずかしい。
「ありがとう、ございます」
えへへと笑えば彼の表情がほんの少し柔らかくなって、素直に嬉しいなと思った。
ああ、浅田さんは本当に優しいな。今までにわたしが付き合ってきた男性とは明らかに違う。
ただの後輩でしかないわたしに、そんなことを言ってくれる人なんてそうそういない。
この優しさを加地さんが少しでも持ってくれるなら、わたしは今よりずっとうまく関係を築くことができるのに。
自然とそう思い、視線を向けるとぱちりと目があう。互いの瞳に相手しか映っていないことがわかり、かすかに目を見開いて驚いた。
その表情を見た加地さんは息をもらすように笑っていた。

