「堅いところもあるけど、真面目だし誠実だし。
こわいと思っている人もいるけど、あんたはそうは感じていないでしょう?」

「うん」

「浅田さんが本気でくるみを想ってくれているなら、そっちの方がいいわ」



想われているから付き合うの? 自分に恋情がないのに、逃げ先にするの? そんな虚しいことってないんじゃないかな。

わたしは相手がそんなふうに考えていても構わないと思い、付き合ってと言ったこともあるけど、でもそれはわたしの場合。浅田さんの気持ちをはっきりと聞いてもいないのに利用するなんてできない。

それは好意を向けている人の心を弄んでいることにならないの……?



「あんたは想われる安心感を手にした方がいいのよ」



はっきりと言い切る真由はわたしのことを心配してくれていて。だからわたしにはできそうもないのに、無理だとは言えずにいた。

すると、



「あんたたち、会社の近くで無用心にもそんな話をして。知り合いに会うとは思わないの?」



こつん、とヒールを鳴らしたすらりとした女性。綺麗に巻かれた髪を揺らした彼女が、わたしたちのそばに立った。



「佐野さん……」



明らかに話を聞かれていた。どうしようと焦っていると、相席いいわよね? と気持ちばかりの確認をしてくる。

もちろんです、と応えるしかないわたしたちのテーブルに佐野さんが腰をおろす。斜めの席にある美しい顔を見ていられず、視線がさがった。



「あたしね、加地さんと完全におわったの」



注文を済ませたあと、誰ともなしに投げかけられた言葉にびくりと肩が跳ねる。

真由はついさっき、わたしは昨日。耳にしたばかりの話だけど、そのきっかけを与えたのはわたしだと思うといやにどきどきする。



「あたしの一方通行で、迷惑かけただけの関係だったけどね。優しい彼には悪いことをしたと思ってる」

「あの、佐野さん、先日はすみませんでした……」



わかっていた彼の優しさについて言われ、好きだから目をそらしていたかったことと向かい合うことになって、迷惑だったのはわたしの方。ふたりのことに偉そうに口を出してしまったこと、申しわけないと思っていたんだ。

自然と膝に手を当て、唇を噛み締める。その様子を見た佐野さんが眉をひそめた。



「水瀬って本当、腹がたつわね」