「父が少しでも楽ができるようにと、わたしは料理や掃除なんかの家事を手伝うようになりました」
最初は失敗してばかりだったけど、父は1度だって怒ったりしなかった。いつもありがとうって笑ってくれた。
それが嬉しくてやり続けるうちに慣れ、中学にあがる頃には自分で言うのもなんだけど同年代の子には負けない腕になっていたんだ。
そのうちに父の行動や考えを読んで、可能な限り支えるようになって。思えば今の行動はみんな、あの頃の名残……影響を受けているんだろう。
「あの時わたしには父がいたから、ここまでこれたんです」
そう言って、父への想いを馳せる。無理しがちだから少し心配だけど、もうわたしが気にせずとも大丈夫なんだろう。
それでも小さく元気かなぁとこぼせば、加地さんがん? と不思議そうにする。
「お父さんと会ってないの?」
「はい。再婚して、実家には新しい奥さんと住んでいるので」
長い間ひとり身だったけど、父は見た目はいいんだ。そしてわたしのためにとよく働いて、仕事もできる。優しい性格もあって、こぶつきだろうと人気があることをわたしはよく知っていた。
それでもわたしのことを考えて、すべての誘いを断っていた父が愛する人ができたんだと告げてきた時────高校3年生になった時。わたしは大学生になったら家を出ることを決めた。
「うまくやってるみたいなんで、わたしが会いに行くのは奥さんからしたら気まずいかなぁって」
だって前の奥さんとの子どもなんて、新たに家族になるためには面倒なだけ。気を遣わせるなんて絶対にいやだった。
わたしがまだ幼かったら一緒に過ごすから、関係を築いていかなくてはいけないけど、もういい大人。これくらいの距離でいいはず。
ふたりが幸せなら、それでいいと思う。さみしくたって、わたしは十分に愛情をもらってきたもの。
少しでもその愛情を父に返したかった。