尽くしたいと思うのは、





「1週間お疲れさまでした!」



キティというカクテルのグラスを彼のものとあわせ、口に運ぶ。甘いそれが喉を滑りおちて、自然と息がもれた。



加地さんが連れてきてくれたのは、目立たない裏道にある小さなイタリアンバー。パスタやピザが本場の味で、お酒も美味しい。ワインを使ったカクテルの種類が豊富なんだ。

わたしは茄子のボロネーゼ、加地さんはスプリッツァーとカルボナーラを注文した。



レンガ造りふうの壁に、少し薄暗い雰囲気のある店内。ワイン瓶やグラスのデザインの照明があちこちに置かれていて、ちょうどいい明るさ。

カウンター以外は適度な距離に設置された席が気軽に話をしやすいようになっていて。個室じゃないのに安心してふたりの空気を楽しめる。

さすが、女性受けのしそうな店をよく知っている。



女性の影を感じつつもお互いをねぎらい、話に花を咲かせる。今まで彼とこんな時間をとったことはなかったけど、同じ会社に勤めるという共通点から、話題は尽きない。

一から十まで言わなくとも察してもらえるというのは、とても気が楽だ。



にこにこと笑いながら喉を潤すため、そして少しの緊張を誤魔化すためにグラスをどんどんあけていき、結構な量を飲んでしまった。

7月末の飲み会の時みたい……ううん、それよりずっと飲んだように思う。ふわふわとぼやけた思考がよくないと思いつつも気持ちがいい。



「……水瀬ちゃん」

「はい? なんでしょう」



名前を呼ばれてふにゃふにゃとした笑みを向ける。その様子に加地さんはふっと小さく息をもらす。

吐息で笑う姿にどきどきして、嬉しいなぁと思う。



「火曜日に、佐野と話をしたよ」



今日は金曜日だから、つまり3日前ということ。修羅場に遭遇してから4日後にきちんとした場をふたりで設けていたらしい。

冷静になった状態で話しあうことは勇気がいっただろう。



「俺たちの関係の異常さ、迂闊だったこと、想ってること、みんな言いあって。それで結論をだしてきた」

「はい」

「ありがとね」



……きっと今日、彼はこの報告をするためにわたしを誘ってくれたんだ。わたしはたいしたことをしていないのに、変なところでちゃんとしている人だから。

詳しい内容も状況も知らない。すべてが済んだあとのこと。

だけど、甘く浮かれるような理由じゃなかったことが残念だと思いつつも、わざわざ言ってくれたことが。ありがとうと言ってくれたことが、とても嬉しかった。