尽くしたいと思うのは、





「まぁ、俺は水瀬ちゃんが淹れてくれた方が好きなんだけどね」

「え!」



なんですって⁈ とあわあわしていると、彼はぷっと吹き出す。冗談だよ、と言われて頬があつくなる。



「そんなにかんたんにからかわれて、水瀬ちゃん大丈夫?」

「からかった張本人に言われたくないです……」



やっぱり加地さんは罪づくりな人。ずるい人だ。

むぅ、とむくれていると、突然鳴り響く音。すぐそばのエレベーターが開いた。

こつん、とヒールがフロアを打つ。



「っ、」



そこには佐野さんがいた。



佐野ちゃんも帰り? と加地さんが声をかけるけど、「まぁ」と適当な返事だけが返ってくる。



ふわふわと髪を揺らしてわたしたちの前に姿を現して、いやそうな顔をする。歪んだ表情さえも美しいけど、綺麗な人のこういう表情はけっこう胸にくる。

うっと息がつまった。



今日はなにを言われるんだろう、と心臓が痛いほど緊張していると、彼女の目はわたしを通り過ぎて加地さんへ。



「加地さんって散々水瀬さんのことをだめ男生産機だのなんだの言ってるのに、結局彼女のことかまうんですね。」

「うん?」

「そんなに男性は可愛いビジュアルの子が好きなんですか?」



険のある言葉に、加地さんがわずかに眉をひそめる。自分の見た目についておそらく嫌味を言われたんだろう、わたしはどうしたらいいのかな。



「……なにが言いたいの?」

「あたしと寝たのに、水瀬さんにも手を出すんですね。本当、軽い人」



明らかな宣戦布告に加地さんが苛立っているのが伝わる。だけど彼は否定しない。

佐野さんと寝たことを、否定しない。



……だめだ、ショックなんて受けちゃだめ。

このタイミングで、そのことで、傷ついている余裕なんてない。それに、うそだという可能性を期待しつつもそれはないとわかっていた。



掌にぎゅっと爪を立てる。痛みで痛みを誤魔化せるように。