「そりゃ、意識して軽い生き方をしてるからね」



予想を裏切る発言に静かに困惑する。

天性のものだと思っていた、彼の軽いところは、華やかな女性関係は、意図的なものだったなんて。考えもしなかったことにわたしは首を傾げた。



なら、どうして、そんなふうにしているんだろう。



わたしの疑問がわかるんだろう。ははっと、いつもと違いくすんだ色の笑みをもらす。

その表情は、笑っているはずなのに歪んでいるようにしか見えない。



「水瀬ちゃんならわかるよね?
〝想い〟は〝重い〟んだよ」

「っ、」



よく、わかることだった。

ただ好きで、好きだと思うから大切にしたくて。いつも相手が笑顔であればいい、辛くなければと、そう考える。



好きな人には幸せでいて欲しい。

そう思うのはおかしいことじゃないなずなのに、いつも間違えてしまう。うまくできない。

大切な人を、ちゃんと大切にできない。



わたしの〝好き〟は重いんだ。



「それが誰かを傷つけるなら、軽い方が、適当な方がいい。だって傷は浅いに越したことないよね」



……それは、違う。適当な方がいいなんて、そんなことない。

苦しいけど、難しいけど、……傷つけることもあるけど。それでも誠意がないとだめだ。



そんなかんたんなこともわからない人。わからなくなるほど、考えてしまった人。

なんでもできるようで、最低な男のようで、加地さんは違う。わたしが目をそらしていただけで、ずっとそうじゃなかったんですね。



ぎしりと椅子が音を立てる。口の中の甘さが、切なさを倍増させる。

泣き出しそうなほど苦しんでいる表情が愛おしい。



ああ、わたし、────この人が好き。とても好きだ。

軽い男に見せかけた、さみしく優しいこの人を、幸せにしたい。