淡々とした口調。感情は乗せられていないように聞こえるのに、そんなことはない。
あつくて、痛い。とてもこわい。
そもそも勘違いなんてしているつもりはない。
思っていたよりはいい人だったのかな、と認識を改めただけ。よくなかった印象が他の人と同じようになったくらいだし、調子に乗っているわけじゃない。
これでも一応、最近彼氏にふられたばかりなんだから。吹っ切れているとはいえ、もしかしてわたしのこと……? なんて都合よく考えるほどの元気はない。
なんの反応も示さないわたしに苛立ったのか、彼女の声には険がある。
「加地さんは誰にでも甘い言葉を言うし、体の関係だって持つ。あんたにしたことはなにも特別なんかじゃないのよ」
「っ、」
〝体の関係だって持つ〟
……知っていた。ここの社員なら、みんな知っている噂。それは確信のないことだけど、火のないところに煙は立たないものだから。
だけど、それでも、聞きたくないことだった。
「その関係って、佐野さんのことですか……?」
絞り出した声が予想よりずっと震えていて、自分の声のはずなのに、驚いてしまう。
どうしてこんな、胸がざわめくの。
こつこつと佐野さんのヒールの音が響く。鼓膜が振動するのを感じながら、こくりと唾を飲みこむ。
姿を見せた佐野さんは笑っていた。無言のその笑みは、肯定だった。
そのまま彼女は一足先に部屋を出て行った。ぽつんとわたしだけが取り残される。
そっと胸を押さえると、とくとくと心臓の音。それがやけに早く、全身を震わせているみたい。
きっと、……きっと近しい人たちがあんなただれた関係だと知ってしまったから。だからこんな、複雑な心境になっているんだ。
「だけど本当は、」
加地さんのことを素敵だと思ってしまっていたから。もっとよく知りたいと、避けていた少し前の自分を後悔してしまっていたから。
だからこんなにも、苦しい。

