尽くしたいと思うのは、





顔を真っ赤にして、視線をさげる。おちた髪でそっと表情を隠した。



「すでにだめ男の俺をさらにだめにするなんて、水瀬ちゃんはこわい女だなー」



なに言ってるんですか! と思わず声を荒げる。

正直なところ、加地さんはいい男とは言い難い。だって遊び人なんて女の敵だもの。だけどだめ男ではないし、そもそもわたしはだめにする気はない。

もし加地さんまでそんなふうになったら立ち直れないよ。



ころころと変わるわたしの表情を見て、加地さんは笑い声をもらす。目が細くなって、そのまぶたに触れたくなった。



「じゃあせっかくだし、もらっておこうかな」



わたしがばかなことを考えている隙に結論が出たらしい。ひょいっと手の中から包みが攫われて、わたしよりずっと大きい掌に収まる。



誰かに作ったものを渡す時はいつでもどきどきする。喜んでもらえるようにと、願っているから。

それは相手が加地さんでも変わらない。ううん、みんなより……もっと。



受け取ってくれた彼が、少しでも美味しいと思ってくれますように。



そうやっていつもと違って和やかに話をしていると、思っていたより時間は過ぎていたみたい。気づけばもうすぐ朝礼の時間だ。

周りの席もほとんど埋まっている。営業は今事務室に入ってきた浅田さんで最後だし。



意識すれば、わたしへの申し訳なさと珍しい様子にみんなわたしたちが気になっていたらしく、ちらちらと向けられる視線を感じた。



「それじゃあわたし、そろそろ戻りますね」



うん、と頷いた彼がわたしの名を呼ぶ。翻しかけていた体をとめて、首を小さく傾げて返事をした。



「俺のことだけは好きになっちゃだめだよ」



わたしの胸を駆け巡る、まだ名前のない感情に釘を刺したのかと目を見開く。

だけど加地さんの表情に、かすかに笑みを浮かべているのに泣き顔にしか見えない表情に、閉塞感を抱いた。息がつまったように、苦しい。



そんなわたしの様子に気づいた彼はへらりと笑ってみせて、そしてくしゃりとわたしの髪を混ぜた。立ち上がった彼は背を向けて、そのままわたしを置いて事務室から出て行く。

彼の手が震えていた気がして、だけどその理由がわからないことにわたしは少し、切なくなった。