「なるほど」



話を聞いてみたところ、どうやら明日中に表にしないといけないデータがあるんだとか。しかもそれが結構な量で。

前々から指示されていたものなんだけど、すっかり忘れていて、期日が近づいた今になって気づいたらしい。

ぎりぎりでも、事前に気づけただけましだとは思うけど。



それにしても、明衣ちゃんは仕事は丁寧なんだけど、たまにしでかすうっかりが大変だ。

わたしも容量はよくないし、あまり人のこと言えないんだけどね。



「わかった、明衣ちゃんの仕事なんでもいいから回して? 手伝うから」

「でも、そんなことしたらくるみさん、また残業に……」

「大丈夫だよ。気にしないで」



週に何度か賢治の部屋に料理をしに行っていた生活が終わりを迎えたのも、もう1週間以上も前のこと。今じゃ疑いようもないほど季節は夏だ。

急に予定がなくなった日々は時間を持て余しているし、明衣ちゃんの助けになれるならわたしは別に平気だ。



明衣ちゃんが賢治と同い年だったこともあり、以前から放っておけずよく構っていた。

それに、困っている人がいたらどうにかしてあげたいと考えるのは、幼い頃から変わらない。わたしはそういう性質なんだもの。



「ふたりでやったら間に合うよ。
だから焦らないで」



ね? と微笑んでみせれば、明衣ちゃんは首をこくこくと縦に振る。

ありがとうございます、と涙に濡れた声にあわわと焦りながらも背をとん、と軽く叩いた。



すると、彼女の向こうにまたやってる……と言いたげな表情を浮かべた真由がいて。曖昧に笑いかけると、肩をすくめた真由は自分のパソコンへ視線を戻した。

自分にも他人にも厳しい真由は、わたしが他人の仕事も手伝って、残業をしてばかりいる様子を快く思っていない。だけどなんだかんだで今回も、最低限のフォローはしてくれるんだろうな。



「じゃあ頑張ろう!」



目の前に積まれた資料を前に、わたしは思考を仕事一色に染めあげた。