仕事中の加地さんは、普段は適当な遊び人とは思えない。誰より真剣でいくつもの仕事を同時にこなしている。
新規営業の開拓をしつつ、いつもお世話になっているところにはいち早く情報を持っていく。にこやかな笑みと真面目な表情で、いつだって見事に仕事と心をつかんでくるんだ。
切り替えがうまい彼はだてにうちの会社のエースと呼ばれていない。
そんな加地さんの隣に座る、営業事務の佐野 美奈子(さの みなこ)さんがさりげなく資料を渡している。背がぴしっと伸びた、美しいアシストに目を細めた。
わたしと加地さんの間、佐野さんは26歳。
ヘアクリップで髪をひとつにまとめていて、真由と同じようにパンツが似合っていて、見た目までもできる女。だけど綺麗に巻かれた髪に女性らしさを感じる。
わたしはよく睨まれているような気がして、少しだけ……苦手だったりするけど。でも、入社した頃はそんなことなかったし。これといった害もないし気のせいだと思いたい。
それよりも気になるのは、実は彼女は加地さんと関係を持っているという噂があるということ。
本当のところは知らないけど、仕事っぷりを見る限り、とりあえずふたりには通じあうものがあるんだろう。息ぴったりだもの。
ここにいる人たちはみんなばりばり働く、精鋭ばかり。そんなすごい人たちだから小さな会社でも仕事が回るんだ。
わたしは誰にでもできるような仕事しかしていないけれど。
……うん。それでもわたしも、頑張ろう。
自分にできることを丁寧に。そうやっていくしかない。
腐らないで一生懸命に。たとえ重いと言われても、仕事に対してまっすぐでいることは悪いことではないはずだから。
よし! と気合いを入れ直して、目当てのファイルを抱えて自分の席に戻った。
ファイルを席に置くと、隣の席にいるひとつ年下の後輩・小沢 明衣(おざわ めい)ちゃんが必死でパソコンに向き合っている。眉間にしわが寄っていて、あまりにも追い詰められた様子にびくりと肩を揺らしてしまう。
「明衣ちゃん……?」
「く、くるみさん〜〜!」
そっと名前を呼べば、こちらに視線を向けた彼女の瞳は涙で潤んでいる。すがるような声に思わずどうしたの? と慌てた声をあげた。