ふたりが笑い合っているのが、すごく嫌で。
ふたりの近しい距離間が、すごく嫌で。
でもそれよりも、なによりも……
『彼女はどうせもう、いないんだから』
って思って安心しようとしている自分が、すごくすごく嫌だ。
自分の心の、凱斗を好きでいる綺麗な部分が、汚い色に染まってしまったような気がする。
「俺はさりげなく入江と距離を置こうとした。そしたらその途端に、入江の様子が変わり始めた」
「変わった? どんな風に?」
「まるでふたりが、今も付き合ってるみたいに堂々と振る舞い始めたんだ」
「なにそれ! ずいぶん図々しいじゃん!」
「図々しいっていうか、事実を認めたくなくて必死っていう感じで。その痛々しさがちょっと怖いくらいで、でも俺にはどうしようもなくて」
『ここ最近、どうも悩み事があったみたい』
あたしは、クラスの女子たちが囁いていた噂話を思い出した。
じゃあ入江さんの悩み事って、凱斗のことだったんだろうか?
凱斗の目は視線を落として、コップの中の黒い液体を見つめているけれど、その目は明らかにコーヒーじゃない別のなにかを見つめていた。
なんだか、あたしたちに話しているというよりも、自分自身に語っているように見える。


