凱斗の匂いに包まれて、頬や耳だけじゃなく体全体が熱く火照ってる。
顔が彼の固い胸に押し付けられて、息苦しい。
でも心臓がこんなにドクドク激しく鳴ってるのは、たぶん息が苦しいからだけじゃなくて。
怖くてドキドキしてるのか、凱斗にドキドキしてるのか、わかんない。
もう全然、わかんないよぉ……。
「さっさと行こうぜ。誰かに見られちゃまずい」
「そうだな。行こう」
バタバタと複数の足音が乱れる音がして、来た時と同じように慌ただしく、グループは教室から出て行った。
彼らが遠ざかって行く気配を、あたしは凱斗の腕の中でじっと聞いている。
やがて足音が完全に消え去ったのを確かめてから、凱斗に小声で話しかけた。
「行った……よね?」
「ああ。もう大丈夫だ。心配ない」
「うん」
「…………」
「…………」
シン、と周りが静まり返った。
さっきまでの騒動が嘘みたいに、室内にはなんの音も聞こえ無い。
もう大丈夫。誰もいなくなった。それが分かっているのに……
凱斗は、あたしを抱きしめる腕をずっと放そうとしなかった。


